21世紀の国富論−新しい時代の新しい産業と新しい思想について

21世紀の国富論

21世紀の国富論

アメリ金融危機を目の当たりにして、今こそ読むべき1冊です。
この本の内容は、アメリカンドリームとIT産業の終わり、その次に来る産業と社会のあり方を論じたものです。

「会社は株主のもの」というマーケット至上主義、金融市場に金があつまり、それでより高い株価をつけることが、いい経営者といわれる社会って考えてみるとやっぱり変だと思う日本人は多いです。

こういった長考を助長しているビジネススクールについて

ビジネススクールの失敗は、あらゆるものをすべて数字に置き換えたことにあります。人の動機付け、幸せと言った本来は定性的なものまで何もかも定量的な数字で分析しようとしたために、手段と目的が反対になる現象が起きるのです。

と一刀両断しています。

今世界の中心であるIT産業は、もう終わりだといい、では次に来るものは、なにかポストコンピューティング産業について

コミュニケーションに基づいた次世代のアーキテクチャ。私はこれをPUC(パーベイシブ・ユビキタス・コミュニケーションズ)と呼んでいます。つまり、使っていることを感じさせず(パーベイシブ)、どこにでも遍在し(ユビキタス)利用できるコミュニケーション機能です。

これは、未だ商品化されていませんから、具体的にどういうものかは、著者もまだ考えているところのようです。
いつでもどこでもコミュニケーションでき、情報を引き出せると言うことですから、甲殻機動隊の電脳のようなイメージをもてばいいのかと思います。

それを実現化するためには、今まで以上に早いCPUや、データ転送技術も必要となります。そして、もう一つが、データを扱う新しい技術です。

世の中には属性がうまく定義できないデータが数多くあります。たとえば、遺伝子のDNA配列やタンパクのアミノ酸構造です。こういうものをアンストラクチャード・データといいます。この種のデータは、リレーショナル・データベースでは、まったく歯が立たない。インデックス・ファブリックはこうしたデータ構造を扱うことができるのです。

このインデックス・ファブリックがコア技術となり、大きな技術革新が起きるのだといいます。

こういった製品を「知的工業製品」といいますが、知的工業製品の時代にあった新しい組織

社長と社員のあいだにあまり差のないフラットな組織をもつネットワーク型の中小企業

と定義しています。
会社もそうですが、個人に瞬時にデーターやコミュニケーションが可能になると、自然と政治の形もかわり、人々の考え方も変わっています。

事実、貨幣経済の発達、資本主義経済、とりわけ自由主義経済の下での幸福モデルはすでに崩壊してきています。

100億円以上のお金をつくったそのような人たちのなかに、本当の意味で幸せになった人はほとんどない、という事実があります。
お金持ちになったら幸せになれる――そう人々を信じ込ませるところに、アメリカンドリーム流の「幸福の定義」は問題があると私は考えています。
(略)
シリコンバレーでも、事業で成功して急にお金持ちになった人が、欲しかった欧州車を何台も買い、プールのある大きな家を買います。なかには宮殿のような家を買う人もいます。でも家なんて、ある程度の規模より大きくなると、かえって居心地が悪いものです。

お金やGDPは目的化され、その思考が個人にまで波及する。モノがほしい、人に見せたい、だからまたお金を使う、の繰り返し。人類は幸せになるための手段を目的化することで、精神的にはどんどん飢えてしまっているのです。

遅かれ早かれ、右肩あがりの市場経済を前提とした、自由主義経済での幸福モデルは破綻するのは目に見えています。
アメリカを例に取ると、アメリカの産業の発達にともない、国内での生産物を海外に売ることで外貨を獲得、国民は多くの富を手に入れてきました。
最初は、第一次大戦後のヨーロッパ、次が中南米、アジア、と順番に進出していきます。
それらの国々も、経済が発達すると、また新しい市場を求めて商品や産業を輸出します。
BRICSが、大きく成長したら、次はアフリカでしょうか。
もし、アフリカが経済成長を遂げたら、次はどこに市場を求めていけばいいのでしょうか。

さかのぼれば、十字軍の時代、大航海時代からきている、新興市場ありきの経済発展、それに基づく幸福感のモデルというのは、国家ぐるみのネズミ講となにもかわりません。サイクルや規模が大きすぎてなかなか分からないだけです。

ネズミ講と同じように、胴元は儲かるかも知れませんが、次の次の次のとネズミ講を広げていけば最後は必ず破綻します。

しかし、そうなっていても、自由主義経済を動かしてきたものは、幸福感を数値化できるモノを手段としてもったために、その数字(手段)が目的になってしまったためです。


PUCが一般に使われるようになり、個人が扱える情報が格段に増え、コミュニケーションも容易になったときに、そこには新しい思想が必要となります。

お金で幸せになれるというアメリカンドリームにかわるもの、このアメリカンドリームの変形版がいわゆるご利益宗教(新興宗教)といわれるものです。

アメリカンドリームも原型となったとのは、キリスト教宗教改革からうまれたプロテスタンティズムです。15世紀ごろの思想はもう社会に対応しきれなくなりました。

いまこそ新しい思想が必要となっているとおもいます。
それを世界に向けて発表する人が現れたら、きっと歴史に名を残すことになるだろうと思った1冊でした。