まぐれ−投資家はなぜ、運と実力を勘違いするのか〓統計的思考で思いこみやこじつけに陥らない方法

読んでみましたが、かなり面白い。
最近の投資がらみの破綻話を知ると、余計にこの本に書かれていることが本当だなと実感しました。

リディアの王クロイソスは、当時世界一のお金持ちだと考えられていた。
(略)
クロイソスはとうとうあからさまに、私が一番幸せだとは思わないのかときた。ソロンはこう答えた。
「すべてが満ち足りた人に不幸が訪れた例はたくさんあります。今、裕福であるからと言って思い上がるべきではありませんし、今は裕福そうでも将来そうでなくなるかも知れないときに、人の裕福さを褒め称えるべきでもありません。将来のことはわかりません。本当にさまざまなことが起こりうるのです。神から一生ずっと幸せだと約束されたのでないかぎり、幸せであると言うことはできません。」

これは、ソロンの戒めと最初に出てくる話です。
今がうまくいっている、金持ちだからと行って、将来もそれが続くとは限らないと言うことです。
住宅バブルがはじける前の、投資家の皆さんにも見てもらいたい言葉です。問題は、そういうリスクは本当に管理できるかどうか。

人間の脳というのは、実はそれほど合理的に働いていません。

リスクに気づいたりリスクを避けたりと言った活動のほとんどをつかさどるのは、脳の「考える」部分ではなく「感じる」部分なのだ。
(略)
つまり、リスクを避けようとするとき、合理的な考えは少ししか関係ないし、ほとんど関係ないと言っていい。合理的な考えが役割を果たすのは、ほとんど、自分の行動に何か理屈をつけてせいとうかするときのようだ。

では、どうしてこのようなことが起きるのか。
考えてみるとサブプライムローンも、金を返せない人に金を貸し付けたものを債権化するのですから、投資の部外者からみると、「それって、なんて言うバブル?」と聞きたくなるような代物ですが、日本の銀行も一部この債権を買いましたが、バブルを経験していなかった欧米各国の銀行はこぞって、サブプライムローン債を買っていました。その理由を本書はこう説明しています。

ベテラン・トレーダーのマーティ・オーコーネルはそれを消防署効果と呼ぶ。彼によると、消防士は休み時間にお互いにとてもよく話すので、仲間の輪の外から客観的に見るとむちゃくちゃにしか思えない考えを持ってしまう。

加えて、人間自分だけは、そうではないという、統計確率的には絶対あり得ないことを考えてしまいます。
その一例として、あるがんセンターでの風景が紹介されています。

絶望的な患者たちが治療を求めて運び込まれている横で、がん担当の看護師(そして、たぶん医者も)が何十人もタバコを加えて出入り口あたりで立っている。

喫煙とガンの発生率の関係について、否定する人はほとんどいないと思います。それなのにどうしてこういうことが起きるのか。
人間の実感として、自分はそうでないというのは調査結果で明らかになっています。

人は何かをするとき、実際にそうでなくても、自分はうまくやれるんだという幻想をもつ。80%から90%の人が、いろいろなことについて、自分は平均(および中央値)よりも上だとおもっていることもそれで説明がつく。

みんなが平均より上だと思っていたら、これが90%となると、そのうち半分は勘違いということになります。
自分は人よりましだと誰しも思いたいものですが、なんでもそうはなりません。

まとめると
リスクは、必ず確率的に発生する。
仮にうまくいったとしても、それは、ある条件と、自分の判断が合致した結果に過ぎない。
前提条件が崩れるとそのビジネスモデルはあっという間に破綻する。(住宅バブルの値上がり前提など)
そして、よく考えて行動してないひとでも、社会情勢や、環境が、その人のやり方と一致すれば、一時的に経済的成功を収めることは十分にある。
それは、無限の数の猿に、一台ずつタイプライターを、むちゃくちゃに打たせてみると、なかには、素晴らしい詞をが完成することがあるのと同じ事だと言うことです。
しかし、そういう成功は必ずしも続かない。ロシアンルーレットを何十回も繰り返して生き残れる人はほとんどいないのと同じ。(しかし、何千人、何万人と同じ事をすると、中に生き残れる人が一人くらいはいる。それが、世に言う成功者)

思いこみや、迷信に振り回されず、思考を遮断するノイズを断ち切って、いかに合理的に判断し、リスクを最大限によけるか(確率的に完全によけることは難しい)ということを教えてくれる大変いい本でした。

署名の「まぐれ」と聞くと、何にもしなくていいのかというとそうではありません。
世に言う成功者のほとんどは「まぐれ」(ロシアンルーレットでの勝者)であるということは、確率的に言えると言うことでした。
しかし、それを確率的に一時うまくいってるだけと気づく人は、次の破局を避ける手を考えることもできますが、「これが実力」と思った人は、環境や、ビジネスモデルの前提が崩れた瞬間、一気に文無しになってしまうということが分かりました。

リスクとはどういうものか、理解できる一冊です。