急に売れ始めるにはワケがある

急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則 (SB文庫)

急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則 (SB文庫)

ある商品や、サービスが一気に普及するとき、ある現象が一気に大きな流れになるとき、それを『The Tipping Point』(傾くポイント)といいます。

それはどういうメカニズムによって起きるのかを、口コミがどのように大きな流れを作るのかを解説したとても分かりやす本です。

その原則として

  1. 少数者の法則
  2. 粘りの要素
  3. 背景の力

をあげています。

ある商品やサービス(社会運動や宗教運動など)が始まると、それに最初に飛びつく人たちがいる。
情報感度の高い人たちです。
いわゆるイノヴェーター(導入者)といわれる人たちだ。
この少数派の人たちの中で、コネクター、メイブン、セールスマンといった種類の人たちが、周囲にそれをすすめてくれるという。
ネクターとは、文字通り顔の広い、多くの知人を持つ人のことで、この人を媒介として口コミは一気に広まっていく。
次のメイブン(通人)とは、その分野においてやたら詳しい人、いわゆるマニアの人ですね。
音楽や、商品などはこういうやたら詳しい人が、そのすばらしさを訴えてきます。
セールスマンとは、説得する人のことです。


かくいう私もそういう経験が有ります。Dream Theaterというバンドがありますが、これを私に熱心にすすめてきた友人がありました。それをすすめることに関して、知識量が半端では有りませんし、喜んでやっています。

こういう相手に伝えたいとかうれしいというような感情というのは、(負の感情もそうですが)相手に伝染します。

感情は内から外にむかうというわけだ。だが、感情の伝染という発想に従うなら、その逆もまた正しいということになる。p117

自分の感情が、顔や口に現れるのは、自分のことですから判ります。その逆も有るということです。
これは本にも書いてありますが、種々の実験でも結果が明らかになっています。

口コミが、グループ単位で力を発揮した時を、この本では、メソジスト運動を起こした、ジョン・ウェスリーが紹介されている。彼は1780年代の5、6年で2万人から9万人と改宗者を急増させている。
その手法は、ある地域に一定期間いて説教をして、熱心な信者が集まると10数人の組を作り、毎週会合をするように組織を作った。
彼は生涯、そのグループの間を巡り続けたという。

ウェスリーは知っていた。もし人々の信仰と行動に根本的な変化を、永続的で退任の模範になるような変化をもたらしたいのなら、新たな信仰が実践され、表現され、育まれるような共同体を創設する必要がある、と。p234

日本で言えば、浄土真宗を全国に広めた蓮如上人の講と同じようなものなんでしょうね。

もうひとつは、「ヤーヤー姉妹会」という本がベストセラーになって経緯が紹介されている。
この本がヒットした要因は、アメリカに各地にある朗読会メンバーに広く受け入れられたからだそうです。この各地に有る朗読会が、メソジストのグループや、講のような役割をはたしました。
朗読会には、作者も呼ばれてあちこち回った結果、ベストセラーとなりました。

ようするに何かを記憶したり、味わったりするには、気の置けない仲間と2時間ほど議論するのが手っ取り早い方法なのだ。それは社会レベルの経験となり、話の種になる p235

小規模で緊密なグループには、あるメッセージなり発想なりが持つ潜在的感染力を強化する力がある。p236

そのグループが小規模のほうがいいというのが、

150の法則

150以下であれば、規範なしでも同じ目標を達成することができる。

逆に150人以上になると、とたんに派閥がうまれたり、集まりとしてうまくいかないのだそうだ。

これは組織の人数規模についてだが、口コミの仕組みについてとてもうまく分析してある。そして、イノベーターたちに、いかに関心を持ってもらうかが大事だということです。

この本では、エイズや自殺が広まる背景や、未成年の喫煙問題がなかなか解決しないこと、ニューヨークの犯罪が減った背景について、それぞれのティッピングポイントを例示して解説してくれています。


しかし、いずれも一つ一つは、小さな変化から始まっています。

本書を通じて、わたしたちはこのような例をたくさん見てきたが、そこに共通しているのは、いずれも慎ましいということである。

些細なことから大きな結果を生み出すことは可能なのである。

社会的伝染をつくりだすことに成功した人たちは、ただたんに自分が正しいと思ったことをやっているのではない。よく考えた上で自分の直感を試しているのだ。

その小さな変化を起こした人たちも、自分の直感を信じてそれを試しているということです。
ウェブ時代をゆく」にも、好きを貫くという形で書いてありましたが、同じことが書いてあるとおもいます。

今、自分が目指すところは大きな変化ですが、大きなプロジェクト、巨額の予算を投じなければ、大きな変化が起きるのではなく、些細な変化が、大きなうねりを、爆発的感染を引き起こすということが、わかり、とても元気の出る本です。

ほかにもメモしたい内容が、大量に有る本で、一回のレビューでは書ききれません。

「水を飲むような読書」を目指していましたが、この本は、売り飛ばしたりせず保管書籍の仲間入りです。